長期修繕計画とは
建築物を維持し老朽化を防ぐために欠かせないのが長期修繕計画です。建築物は、定期的に修繕工事をすることで快適な居住環境の確保や資産価値維持につながります。しかし、そのための費用は高額になるため、あらかじめ予算を算定して適切な計画を立てておかなければなりません。
統計では、長期間におよぶ建築物の機能・性能を維持していくための修繕・更新費用は、新築時の建設費以上の費用が必要になると試算されています。そのため、建築物の運用・維持管理費用は、適切な修繕計画のもとに運用していくことが求められます。この記事では、長期修繕計画の基本や注意点を分かりやすく解説します。
長期修繕計画とは
長期修繕計画(ライフサイクルマネジメント:LCM)とは、建築物の機能・性能を維持するだけでなく、社会的要求性能の変化も考慮した修繕計画のことをいいます。
建築物のライフサイクルは「計画段階」→「建設段階」→「運用段階」→「解体段階」となり、その中で必要となるすべての費用がライフサイクルコスト(LCC)と呼ばれています。
ライフサイクルコストには、次のような費用があります。
- 設計費、建設費
- 修繕費、更新費
- 運用費(光熱費等)
- 保守管理費
- 清掃費
- 解体費
建築物のライフサイクル
ライフサイクルコスト(LCC)では、建設費が大きく見られがちですが、建設費は氷山の一角といえるでしょう。なぜなら、建設費などのイニシャルコストに比べて、ランニングコストはその数倍以上となるからです。建築物を健全な状態で長く維持するには、これらのライフサイクルコストを算定して運用計画を立てることが求められます。
このライフサイクルコストの中で修繕費・更新費を算定したものが長期修繕計画です。ライフサイクルコストの中でも、特に建築物の寿命を左右するのが「運用段階」といえるでしょう。運用段階に含まれる修繕費・更新費の割合は大きく、この段階で必要とされる費用をどのように調整していくかが、最も重要です。
このように、機能・性能を維持するだけでなくライフサイクルコストも考慮し、効率的かつ効果的な長期修繕計画を立てることが必要です。また、建築物の修繕工事には以下の①~③のような工事があります。
- ①経常的な補修工事
- ②災害や不測の事故による修繕工事
- ③計画修繕工事(更新を含む)
長期修繕計画とは、「③計画修繕工事」を指し、建築物(設備を含む)の性能や機能を新築時と同等水準に維持し、回復させる修繕・更新工事が対象です。実際に、計画修繕工事を実施する際は、建築物の各部位および設備の劣化状況などの診断を行い、その結果に基づいて修繕の内容や時期などの判断が求められます。
さらに、劣化診断において社会的要求性能の状況調査も必要です。物理的劣化対策工事とあわせて社会的要求性能への対策工事を行うことで、新築時と比較して建築物の社会的要求性能の向上と工事費の削減を図ることが期待できます。
建築物の性能と修繕・更新
長期修繕計画に含まれる項目
長期修繕計画の計画期間は、外装の大規模修繕が2回含まれる程度の期間(30~40年)とすることが多く、同期間には建築物の主要設備の更新時期も含まれています。この計画期間内に、修繕工事や更新工事が必要となる箇所や時期を調査し、各個所の修繕工事の実施時期や費用目安の設定が必要です。具体的な長期修繕計画に含まれる項目には、次のような内容があります。
- 屋根、屋上防水や外壁、共用部外装などの大規模修繕
- 空調、電気、衛生、防災設備機器のメンテナンスや更新
- エレベーター更新
- 省エネ対策工事 など
そのため、これらの実施時期や、費用を計画に組み入れるようにしましょう。修繕・更新時期については、耐用年数や設備の稼働・劣化状況を考慮し計画を立てるのが一般的です。
長期修繕計画のポイント
長期修繕計画でLCCの削減と機能向上の両立を図るためには、以下のポイントを考慮することが重要です。
- ポイント1:改修コストの低減
- ポイント2:資金需要の把握(年次修繕・更新工事費の把握及び平準化)
- ポイント3:運営費削減への対応
- ポイント4:社会的要求性能への対応
ポイント1:改修コストの低減
修繕工事を実施するにあたり、コストの低減を図ることは重要です。
低減方法としては、次のような例があります。
- 工事の集約化(外壁改修と設備更新の抱き合わせなど)
- 複数建物における同一工事の同時発注(防災設備など)
- 競争原理の活用(施工会社選定方式)
- 補助金の活用
例えば、足場を組む必要がある工事をまとめるなど、関連性のある工事を同時発注すれば、コストダウンにつながりますし、外壁改修工事と合わせて外壁側の給排水管の更新をすれば、足場費用の削減が可能となります。
ポイント2:資金需要の把握(年次修繕・更新工事費の把握及び平準化)
長期間にかかる修繕計画では、大きな費用がかかる年度が発生します。その際に必要な資金を把握しておく事が大切です。ただし資金を平準化させる方法もあります。
- 大規模改修工事は期を分け複数年で実施する
- 設備機器の更新は、劣化状況によって複数年で実施する
該当箇所の劣化具合に応じて事前診断も忘れずに計画に組み入れ修繕内容を適宜見直すことも重要です。
このように、工事期間を分けながら効率的に工事すれば、資金需要の平準化につながるでしょう。
ポイント3:運営費削減への対応
修繕工事では、現状の劣化対応だけでなく、将来的な運用を視野に入れて設備の取り換えなどを行うことで、大きなコスト削減につながることが期待できます。運用費削減につながる主な対応は、以下の通りです。
- 省エネシステム機器採用の検討、受電容量の変更
- 修繕コスト低減を考慮したデザイン、建築資材、設備資材への変更
- 清掃しやすいデザインや更新しやすい仕様
- 高寿命、高耐久性の部材や設備への変更
ポイント4:社会的要求性能への対応
建築物の修繕計画では、物理的劣化だけでなく社会的要求性能への対応も重要です。建築物は、利用者のライフスタイルや社会の変化によってニーズも変化していきます。例えば、高齢者が多く利用する建築物でバリアフリー化は欠かせません。ほかにも、環境問題への対応としてカーボンニュートラルへの取り組みは必須となります。
求められるニーズに応えられなければ、需要だけでなく建築物の資産価値も下がってしまう可能性があるため、社会的要求性能への対応も修繕計画に組み込むことが必要です。
社会的要求性能への対応としては、次のようなことがあります。
- カーボンニュートラル対応
- バリアフリー化
- ダイバーシティ対応
- 新しい通信インフラへの対応
- 様々な法令改正に伴う対応
このようなポイントを組み込みながら、適切な長期修繕計画を策定できれば建築物の寿命を延ばし、資産価値を高められるでしょう。とはいえ修繕には高額な費用が必要なため、適切な修繕計画が策定されていないケースもあります。しかしながら、適切な修繕・更新は建築物維持には必須です。一般的な事例として、適切な修繕が行われていない場合は、次のようなデメリットがあります。
- 突発的な機能停止(漏水・停電・空調設備、給排水衛生設備の老朽化による故障など)
- 想定外の費用発生(修理費・復旧費など)
- 予想外の事故発生(火災など)
- 収益低下(稼働率低下による賃料収入減少)
- 資産価値の低下
- エネルギーコストの増加
- 法令違反
- 社会的要求水準との乖離
突発的な設備の故障は、費用が高額になるだけでなく利用者にも迷惑が掛かってしまいかねません。適切な長期修繕計画を立てて実行しておけば、建築物を健全に維持できるだけでなく長期的なコスト削減にもつながるでしょう。
まとめ
長期修繕計画の基本や注意点について解説しました。長期修繕計画は、建物の寿命を延ばし資産価値を維持するために重要です。しかし、修繕工事には高額な費用が必要なため長期修繕計画を策定するうえでは、建物の修繕だけでなく、ライフサイクルコストまでを考慮して計画する必要があります。
ピー・エム・ソリューションでは、LCM管理表システムを用いて、LCM計画策定後の運用状況のモニタリングを行います。修繕・更新工事を見える化し、修繕費、更新費だけでなく、運用費(光熱費等)、保守・管理費、清掃費などを含めたTOTAL LCMの策定をご支援いたします。
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